ワイドパンツ考察

『ワイドパンツは簡単じゃない』

 

ファッションのトレンドはパンツのバランスに反映されるとずっと思っている。それと同時に、世の中に数多あるブランドが各々でリリースしているパンツからは、そのブランドが提案したい世界観を読み取ることが出来るとも考えている。

ファッションなんて所詮は自己満足の領域を出ることはないので、究極的には好きな服を好きなように着ればそれで良いと思う。でも世の中のありとあらゆる事象同様に、『知っていて敢えてやらない』ことと『知らないでやれない』こととの間には天と地ほどの差がある。特に日本において、パンツの存在がこれだけ軽視されているのは何故なのかが未だに理解できない。スタイリングの半分を占める重要なアイテムの筈なのに、明らかにアウターやトップスに比べて存在が軽視されているように思えてならない。上半身同様に下半身のバランスにもトレンドは確実にある。

僕は人のスタイリングを見るときに真っ先にパンツを含めた下半身のバランスを見るようにしている。パンツの素材やデザインは勿論なのだが、一番重視するのは本人の体型とパンツのシルエットが合っているかどうかだ。きっと洋服が好きな方なら経験していると思うが、兎に角パンツはシルエットが難しい。自分に合ったパンツを見つけることに苦労している人も多いはずだ。『神シルエットパンツ』といった文言がSNS上では飛び交っているが、八百万の神もびっくりな頻度で目にするこの単語を見る度に『そんな簡単に自分にピッタリのパンツが見つかるかよ』と冷めた目で流し見してしまう。それくらい自分の体型にマッチするパンツを見つけるのは困難だ。だからこそ体型に合ったパンツを穿いている人を見るとお洒落な人だと思えるし、そういう人は大抵の場合スタイリングのバランスも上手い。スタイリングは自分の体型を知ることから始まる。だからこそ今一度パンツの存在に着目してほしい。

ここ5年ほどの間にパンツのシルエットは本当に大きくなった。トレンド的には昨年半ばからパンツは徐々に細身に移行しているが、それでもまだ街中には脚のラインを拾わない極太のパンツが溢れている。僕自身はそこまで極太なシルエットのパンツを穿くことはほぼ無い。過剰なバランスの服はトレンドが過ぎ去れば一気に古いデザインに堕ちる。そういうインスタントに消費するような服との関わり方はだいぶ前に止めた。買った服は出来るだけ長く愛用したいし、そうした服との関わり方が僕にとっては一番自然で気持ちが良い。勿論その時々でトレンドのバランスは変わるかもしれないけれど、一つだけ言えることとしては『自分の身体に合った服はトレンドに長させずクローゼットにずっと残る』ということだ。パンツに当てはめてみると、自分に合ったパンツはスタイルをよく見せてくれる。穿くだけで脚が長く綺麗に見える。

前述したように未だに街中にはワイドパンツが溢れている。ではワイドパンツでスタイルが良く見える個体がどれだけあるだろうか。脚のラインを拾わないという理由を免罪符として、シルエットが今ひとつしっくりこないパンツを今まで沢山見てきた。ダボついた腰回りや過剰にゆとりのあるヒップ部分、歩くたびに内腿の布が引っかかりストレスになるパターンメイク。この他にもあれやこれやと気になる点が沢山あって、それらが積もり積もって脚が綺麗に見えないワイドパンツという概念を作り上げている。ワイドパンツ=カジュアルという巷の価値観にも意義を唱えたい。ワイドパンツは決してカジュアルなだけのパンツではないし、脚のラインを拾わないからと言ってサイズ選びを疎かにして良いものでもない。逆に言ってしまえばジャストサイズを選んでバランスよく穿けば、ワイドパンツは脚が長く綺麗に見えるパンツに様変わりする。当たり前の服選びをワイドパンツにも当てはめてほしい。そのことを一人でも多くの人に知ってもらいたくてこの記事を書いている。

 

 

腰回りとヒップ部分がコンパクトであること。僕がワイドパンツを選ぶ際に一番重視している点だ。巷に溢れるワイドパンツは腰周りとヒップ部分が大きすぎる。それをベルトで強制的に締め上げて穿くことも出来るだろうが、それをするとお尻部分のシルエットが崩れるし、ワタリ部分の生地が余って歩きにくい。そして上記した部分が大きいワイドパンツは極端なテーパードシルエットの物が多く、それは僕が重視したい『脚を綺麗に見せる』という価値観と相容れない。お尻部分と腰回りがコンパクトなだけでも脚はかなり綺麗に見えるのに、探してみるとこれが中々見つからない。

脚を綺麗に見せたいならシルエットも極太でない方が良い。前述したように過剰なバランスの服はトレンドが過ぎれば着なくなる。だがワイドシルエットのパンツを穿きたいからにはある程度のボリュームも担保したい。そんなパンツを探すとこれも中々見つからない。世の中全体が0か100かの二極化しているように思えてならない。何事も分かりやすさを重視するあまり過剰なものが好まれ、程良い塩梅のものがどんどん減っている気がする。

 

SHINYAから新型のワイドトラウザーズLydiaが発売する。SIZE2で裾幅が27.5㎝あるため、ボリュームのあるスニーカーに合わせた時でも裾を被せて穿くことが出来るバランスになっている。ワタリから下部分のボリュームはあるものの腰回りやヒップ周りはコンパクトにしているため、余計なダボつきが無いのがこのパンツの最大の特徴で、つまりは脚が長く綺麗に見える。素材はブランドが定番で使っている尾州のメーカーのウールギャバ。この素材だからこそ裾を溜めて履いた時でもだらしなくならず、落ち感のある綺麗なシルエットになると思っている。ワイドパンツならではのボリュームを楽しみつつ、歩くたびに綺麗に出る生地の動きがカジュアルになりすぎない絶妙なバランスに着地させてくれる。

ウールギャバのワイドトラウザーズだからこそ、合わせるアイテムによって様々なスタイリングを楽しめる。綺麗なニットやシャツと合わせてモードに楽しんでも良いし、ワイドパンツのアイテムの特性を活かしてスウェットやパーカーと合わせてみても良いかもしれない。ボリュームのあるコートと合わせて縦のラインを構築するのも良いし、逆にコンパクトなシルエットのアウターと組み合わせてメリハリのあるスタイリングに興じるのも面白い。つまりは大体何にでも合う。パンツが決まればスタイリング全体の完成度が一気に上がる。霧が晴れたような感覚をこのパンツは日々のスタイリングの中で与えてくれるはずだ。

SHINYAの提案するワイドトラウザーズには、分かりやすさや派手さは無いかもしれないが、だからこそどんなスタイリングにもするりと溶け込んでくれる黒子のような活躍をしてくれる。この記事の前半でとくとくと語ったように、世の中には過剰なバランスのワイドパンツが多すぎる。そしてこうしたワイドパンツは往々にして脚が綺麗に見えない。この新型トラウザーズは見事に逆張りに成功していて、感動してしまうくらい脚が綺麗に見える。特に僕のような痩せ型の人間はしっくりとくるワイドパンツ選びに苦労しているはずだ。そういう人にこそこのパンツを試してみてほしい。きっと僕と同じように感動するはずだから。脚が綺麗に見えるだけでパンツは楽しいし、楽しい気持ちを味わうことができるパンツはクローゼットに長く残る一本になると信じている。