『靴を一足だけ手元に残すならこれを選ぶ』
個人的な話になるが、僕は旅行に行くときにキャリーケースを使わない。一週間くらいの旅行であれば25Lのバックパックに荷物を詰め込んで出かけてしまう。キャリーケースを使わない一番の理由は機動性が落ちると思っているからだ。飛行機に乗る際は手荷物を一々預けないといけないのが煩わしいし、旅行先での散策の際もキャリーケースをガラガラと音を立てて引くことも気乗りしない。行きたい場所に身軽に行く際にキャリーケースの足枷があると踏ん切りがつかないことが多々あり、それから僕はキャリーケースではなくバックパックを背負って旅先に赴くようになった。荷物は最小限にして、仮に必要なものが出てきた場合は旅先で現地調達すれば良い。想像している以上になんとかなる。僻地に旅行することも多いが取り敢えず何とかなっているし、少なくとも死ぬことはない。
25Lバックパックの容量は、一般的な一週間の旅行者の荷物量からするといささか少なすぎるらしいが、荷物を厳選しつつ上手くパッキングをすればそれほど難しいことではないと思う。服装は着回しが効くものを選びつつ、7通りのスタイリングを組めるように逆算してしまえば良い。ただし毎回の旅行の際に必ず頭を悩ます問題がある。それが靴だ。

僕は旅先で色々な場所に赴く。現地の人のコミュニティに入って、その場の空気を楽しむのが旅行の目的の一つでもある。自分のことを知る人が誰もいない場所だからこそ無理に演じる必要もないし、普段と違うコミュニティにいることで得られる新しい刺激は、旅行の中で欠かすことができない重要なファクターとなっている。コミュニティの中で旅行者である僕は異分子以外の何物でもないからこそ、最低限悪目立ちしない格好を心がけたい。ドレスコードも意外とあり、比較的カッチリとしたスタイリングの必要に迫られることもある。ドレスコードが求められる服が必要ということは、当然ながら靴にだって同様の配慮を迫られる。ただ困ったことに25Lのバックパックに嵩張る靴を入れるスペースなど皆無だ。シューズバッグを別に持ち歩くか?否。シューズを入れるためにキャリーケースを押して歩くか?もっと否だ。ならどうするか。最高に履き回せる一足を吟味してしまえば良い。
一足を選ぶと言ってもこれが中々に難しくもある。ドレスコードを意識するなら革靴を選べば良いが、旅先ともなると話が変わってくる。特に僕の場合は旅先で毎日非常によく歩く。少ない日でも1.5万歩、多い日では3万歩を1日で歩く生活を、おおよそ1週間ほど続ける。その場合に足元がカチッとした革靴だと流石の僕でも脚が辛い。歩きやすさを重視してスニーカーを選ぶと前述したドレスコード問題がパス出来ない。そうなってくると選択肢は限られてくるし、逆に言ってしまえば僕にとっては選択肢はほぼ1つしかない。ここ10年間の旅行では毎回この靴を履いている。guidiのバックジップブーツだ。

何故ここまで旅と靴の話をしてきたのかをこの辺りで話しておきたい。『靴を一足だけ手元に残すなら何を選ぶか』という問いは、靴好きならきっと誰しも投げかけられたことのある命題だと思う。100人いれば100通りの答えがあって然るものだし、その一足を選んだ理由や選ぶ過程から、個々人の生活環境や価値観が透けて見える気がするので、僕はこの問いかけが好きだ。僕自身は『ファッションは自己満だから自分の好きなように着れば良い』という価値観と『ファッションは対面の印象を左右するものだからこそ、TPOを弁えた服装をするべき』という価値観を、常に共依存のように考えながら生きていて、特にここ最近は年齢も年齢なのでTPOへの意識は年々強くなってきている。相手のことを考えて選んだ服装は場の空気を和やかにするし、その空気は相手だけでなく空間全体に波及して良い作用を及ぼすことが多いことも体験してきた。服装一つで意思疎通の障壁が低くなるのであれば、やらないよりもやった方が良いはずだ。特に初対面のコミュニティに身を投じるのであれば、TPOへの意識は普段よりも強く持ちたい。
僕はある程度の足数の靴を所持はしているが、恐らく業界に身を置く者としてはその所持数は少ないと思う。数えてみたらスニーカーやサンダルを含めて22足だった。前職の上司はこの5倍の靴を所持していたし、一般的な靴好きや服好きの人間でももっと持っている人が多いくらいなはずだ。それなのに靴の購入数は年々少なくなっている。何故かといえば自分にとっての『アガりの一足』を手に入れてしまったことが大きい。それがguidiだ。長時間歩くことが可能で、どんな服装にも合うので、カジュアルな服装にもTPOを意識した場にも履いていける革靴。僕にとってのguidiの位置付けは大体こんなところだ。

guidiの靴は油分が多いので、例えば旅先で傷が付いてもあまり気にする必要はない。大雨に振られて濡れてしまっても問題ない。10年間の旅行の間にそんな場面は何度も遭遇してきたが、後からきちんとケアしてあげると見事に蘇ってくれた。寧ろ小傷や色ムラが出た表面の育ち方を見るたびに、旅先での思い出が蘇り嬉しい気持ちになる。多くの革靴にとって傷やムラはマイナス要素になるだろうが、guidiの場合は逆だ。生き物のようにねっとりとした革の表情と、自分の足に馴染んだからこそ出てくる左右不均等の皺は、この靴を靴以上の特別な物体たらしめていると思う。

僕にとって旅行で履く一足は、そのまま『靴を一足だけ手元に残すなら何を選ぶか』ということの答えとなる。長時間の歩行にも耐えられる靴であり、様々な服装との履き回しが可能な靴であり、TPOを意識した場でも履いていける靴で、このguidiのバックジップブーツ以上の靴を、今のところ僕は知らない。旅の中で想定される様々なしがらみを取り払ってくれる一足は、日常生活の中でもその有用性を遺憾なく発揮してくれる。この文章を書いていて思ったのだが、旅も日常も重要なことは詰まるところ結局は同じなのかもしれない。そう考えてみると尚のこと、僕にとっての最愛の一足はこのguidiのバックジップブーツなんだと思えてならない。
