『今年こそもう物は買わない』
『もう服はいらない。クローゼットの中はパンパンだ。クローゼットの中だけではない。シューズクローゼットにも溢れんばかりの靴が入っている。幸い満足のいく服は十二分に揃っているから、一年間服や靴を買わなくてもどうと言うこともない』これは今年はじめの僕の言葉だ。
出来うる限り余計な物を買わない生活をしてきた。同じ業界で働いている人間と比べてみても明らかに持ち物は少ない方だという自負はある。いずれ使わなくなることが目に見えている物は買わないようにしてきたし、その類の物が部屋やクローゼットにある状態は精神的にもあまり宜しくない。長年使える物を吟味して少しずつ揃えていくことはとても楽しい。そしてこの年齢になってようやく服と靴に関しては自分の満足出来るラインナップが揃えられたと思っている。ここ数年洋服の好みも然程変化していないし、趣味嗜好が反映された服や靴で固められたクローゼットを見る度に、社会人になってから課題としていた重荷の一つを降ろせたようでホッとしていた。
ホッとしていたはずなのに結局は今年もあれやこれやと服を買っている。何故かは分からない。クローゼットの中はパンパンでもう物は入らない筈なのに、新しく服を買っても収まってしまう。これも何故かは分からない。分からないのだが収まってしまうのであれば新しい服を買うことも致し方ない。適切なスペースがあるのであれば埋める必要がある。人員が不足した部署に新しく人員を配置するのと同じことだ。だから僕は間違っていない。断じてない。そう信じている。
今年一年の備忘録も兼ねて、購入した物の中で今年特に気に入っている物を10点ピックアップしてみた。他にも本当に沢山の物を買ってはきたが、とりわけファッションの領域での購入品から厳選して選んでいる。半分は自分への備忘録的な立ち位置での記事にはなるが、もし良ければお付き合いいただければ嬉しい。10個を紹介したら全文で1.5万字を超えたので3記事に分けている。まさかこんなことになるとは自分でも思わなかったが、好きなものを語ると熱量が増すから致し方ないと言えば致し方ない。それくらい思い入れのある10点だと思ってご容赦いただきたい。
(2025 BEST BUY ①はこちら)

④AlgernonのスリーピングシャツBourg
4つ目はAlgernonのスリーピングシャツBourg。ご存知の方もいると思うが、Algernonは僕自身が普段から愛用している服をデザイナーにブラッシュアップしてもらい提案しているブランド。お陰様で今年も本当に沢山の人に手に取っていただけたことを、この場を借りて御礼申し上げたい。
Bourgは軍物のスリーピングシャツがベースだ。僕は古着もミリタリー服も好きなのであれこれと所持していて、オリジナルのスリーピングシャツも持っている。古着屋に行くと目にする機会が多い服なので、恐らくは手に取ったことがある方も多いはずだ。そして『生地がチクチクして着づらそう』と僕同様に思った人も多いのではないだろうか。スリーピングシャツは文字通り軍人が就寝時に着る服である筈なのに、世に出回るスリーピングシャツの大半は生地があまり良くない。こんなチクチクした肌当たりの服を着て安眠出来るかよという、半ば怒りにも似た気持ちから作ったのがこのBourgというシャツだ。
生地は以前からSHINYAのブランドで春夏に定評のあるリネン生地を更にブラッシュアップした。元々肌当たりが柔らかいリネン生地を最終工程で更にひと手間加えることで、着用を繰り返して着馴染んだ柔らかさに最初から仕上げている。リネンは皺が気になるから着ないという方も多いが、Bourgで使われているリネン生地は細い糸を超高密度で織っているため、大ぶりのガサガサとした皺は殆ど付かないのが特徴だ。僕はリネンの皺の表情はポジティブに捉えていて、寧ろこの皺の表情こそリネンの魅力だとも思っている。だから基本ノンアイロンで着るし、洗い晒しのリネンシャツが一番格好良いと考えている。皺自体は悪では無いし、皺にも良い皺と悪い皺があるのでは無い打倒か。だからこそ良い皺が楽しめるリネンシャツの面白さを、このブランドを通して改めて提案していきたい。


僕は『曖昧な立ち位置の服』が好きだ。僕自身が色々な格好をするからか、様々な服に溶け込ませるために複数の要素を内包した服を選ぶことが多い。このスリーピングシャツも同様で、シャツの体裁は保ってはいるもののフロント部分にボタンが無い被りのシャツだ。襟付きのシャツほどかっちりとした印象にならず、かと言ってロンTほど畏まらない塩梅が僕好みだ。そもそものデザインソースがスリーピングシャツ(パジャマ)なのでカジュアルウェアだし、そのカジュアルな服を上等なリネン素材で仕立てる天邪鬼な匙加減がとても気に入っている。この写真で合わせているパンツは、同じくAlgernonで今年リリースしたリネン素材のAllukaというパンツ。パターンはスラックスなのにウエストは紐仕様のパジャマパンツ。これも前述したミックス感から僕好みの一本だ。
トップスはスリーピングシャツでボトムスはパジャマパンツという、上下寝巻きなのに外着もいける組み合わせで今年の夏は本当によく着ていた。そしてちょっと畏まった場に赴く際はこの上から同じくリネンジャケットのBenjaminを羽織ってしまえば無問題だった。この3点セットには今年何度となく助けられたので、来年以降も春夏の一軍で活躍してくれると信じている。
年々夏が長く、そして暑くなってきていることもあり、暑い日々を如何に快適に過ごすかは喫緊の課題だと思っている。そして快適さだけでなくちゃんとして見える品の良さも同じくらい大切にしたいとも考えている。楽して着れて楽しているように見えてしまう服は、若い男性が着るなら問題ないかもしれないが、その類の服を僕のようなおっさんが着るのは下策も下策だ。だからこそ周りからはある程度ちゃんとした服を着ているように見えて、でも着ている本人はリラックスして着ることが出来る服が必要だ。必要である筈なのに、これだけ過酷な夏が続く日本において上記したような塩梅の服は探しても中々見つからない。見つからないのであれば自分たちで作る価値と意義があると思っているので、来年も夏仕様にあれこれと仕込んでいる。期待してほしい。
リネン素材は着用と洗濯を繰り返すと繊維が解れてより柔らかい着心地になることをご存知の方も多いと思うが、上記したようにこのBourgは最初から柔らかいリネン素材を使用している。ならばその最初から柔らかいリネンシャツを1シーズン着倒すとどうなるかというと、それはもう極上の一着に育ってくれる。だからこそ尚のこと、このスリーピングシャツBourgは僕にとってはなくてはならない一着だと言える。

⑤SHINYAのコーデュロイパンツStewart
5つ目はSHINYAのコーデュロイパンツStewart。今年の秋冬は間違いなく一番穿いているパンツだと思う。そもそも僕はコーデュロイ素材のパンツが苦手で、今まで意図的に穿かないようにしていた。こちらの記事でもそれとなく書いているが、意味不明なトラッド信仰が蔓延る環境で一時期働いていたことが原因で、僕はトラッドの香りがするアイテムにかなり強烈な拒絶反応を持ってしまっている。デザイナーからはずっと『コーデュロイ素材のアイテムを作りたい』と言われていたのに、僕はこの特級呪物並みのトラウマから『要らないし着ないし欲しくない』と言い続けていた。そんな僕の呪いを一蹴してくれるくらいの破壊力を持ったパンツが今期リリースされた。それがこのStewartだ。


ひと目見てもらえばわかると思うが、このコーデュロイは世間一般に出回っているコーデュロイとは全く別物だ。僕がコーデュロイに抱いていたイメージはどちらかと言えばもっとタフな生地のイメージであって、間違ってもこの写真のようにベロアのようにぬめり気のある表情はしていない。今まで色々な服を見てきたが、これだけ滑らかな光沢感を持ったコーデュロイ生地は初めて見た。そこには僕が毛嫌いしていたトラッドな香りは皆無で、それとは逆にハイモードな塩梅が濃密に感じられる一本に仕上がっていた。これなら僕でも穿けるし、寧ろ穿きたい。穿かせてほしい。



Stewartは今年登場したSHINYAの新型パンツだ。80年代のニューヨークトラッドスタイルをベースにしたパンツで、2インタックにウォッチポケット付きのデザインという、当時流行だったパンツをブラッシュアップしたパンツになっている。その時代のニューヨークのスタイルは検索すれば沢山出てくるし、何より当時を題材とした映画は五万とあるので、気になる方は探してみて欲しい。確かにこのデザインのパンツは色々な場面で見ることができる。
StewartはこれまでSHINYAでリリースしてきたパンツよりも幾分ゆとりがあるシルエットだ。そしてこの『幾分のゆとり』が肝だと思っていて、ただのゆったりとしたパンツにならない塩梅で着地させている。ややゆったりとしていながらヒップ部分はコンパクトで、お尻から裾にかけてストンと落ちるシルエットなので脚が細く長く綺麗に見える。この特徴自体は既存のSHINYAのパンツと同じなのだが、それをこのボリュームのパンツでもやってしまうのが僕には理解出来ない。それでも多くの人にとって穿きやすい仕様になっていることは知っている。このパンツを穿いた人がみんな鏡の前で横向きになってシルエットにうっとりとしている姿を、この1年間星の数ほど見てきたので、如何にStewartが万人に支持される一本なのかは体感として分かっているつもりだ。
そしてご多分に漏れず僕にとっても非常に使いやすいパンツで、穿いた時シルエットの綺麗さと生地のクオリティは勿論のことだが、何よりコーデュロイの温かさによって、最近は下手すると週3〜4回はこのパンツを穿いている。お客さんからも『穿きすぎ』と言われ続けているけれど、恐らくは明日もStewartを穿いている気がする。

⑥MM6のブーツ
6つ目はMM6のブーツ。御殿場のアウトレットでびっくりするような価格で売られていて購入したのだが、まさかこんなに愛用することになるとは思ってもいなかった。ヒールの高さが4.5cmあるので身長が盛れるのも嬉しい。特に秋冬はロングコートやボリュームのあるアウターを着ることが多いので、このブーツを合わせるとスタイリングにメリハリが出て、履く度に新鮮な気持ちを味わうことが出来ている。
肝心の履き心地も想像以上に良く、恐らく僕の足型に合っているのだと思う。安定感のある太ヒールで長時間の歩行でも疲れることはない。あとはリフトの⑥マークが遊び心があって僕は好きだ。




あとはこのことを是非付け加えておきたいのだが、御殿場のマルジェラではとても楽しい買い物体験が出来た。もっと具体的にいうと接客が非常に素晴らしく、今でもこの靴を履く度にその時のことを思い出す。それくらい良い時間だった。
自分でも面倒臭い性格なのは重々承知しているのだが、僕は物を買うときは出来るだけ実店舗で買うようにしていて、そして可能なら良い接客をしてくれる人から買い物をしたいと常々思っている。これだけネットショッピングが台頭している現代にあって、実店舗でわざわざ物を買うことのメリットはこの『買い物体験』以外に無いのではないだろうか。ネットやSNSではどうしても伝えきれない商品への熱量やそのブランドの空気感を伝えるために実店舗があるのであって、だからこそ人対人のコミュニケーションがあってこそ成立する対面接客には無限の可能性があるとも考えている。ネットショッピングの便利さを上回る購入体験をさせてくれるスタッフの接客は一種のエンターティメントだし、そうした興奮を与えてくれる人を僕は心から尊敬している。こうして長々と書いているのは、この逆のパターンを味わうパターンが本当に多いと感じているからであって、だからこそこのブーツを買う際に対応していただいた方々には心から感謝している。経験則にはなるが、良い買い物体験で買った服は長くクローゼットに残り続けることが多い。きっとこのMM 6もそうなると思う。

⑦côte&cielのHyco
7つ目はcôte&cielのショルダーバッグHyco。このバッグに関してはこの記事でとくとくと魅力を語っているので、もし良ければ読んでほしい。
(その③に続く▶︎)
