今までに沢山の服を買ってきた。そして同じくらい沢山の服を手放してきた。服が好きなのでこの行為自体には特段疑問を抱かない。好きな物だからこそ価値観は日々目まぐるしくアップデートされていくし、それに伴ってクローゼットの中が刷新されていくことも当たり前のことだと思う。でもクローゼット内の収納スペースは有限であって、日々増大していく僕の欲望を全て受け止めるには余りにも空間が狭すぎる。だから必要に迫られて購入する服もあれば、同様に必要に迫られて(主にスペースの関係で)手放す服も出てくる。この手放す瞬間がかなり精神を疲弊する作業だということは、服好きの方々なら何となくでも想像出来ると思う。今でこそあまり着ていないかもしれないが、購入当時は自分の感性にとても触れる一着で、実際に着用して出掛けた楽しい思い出も沢山あるため、最早服以上の存在になったそれを手離すのは断腸の思いに等しい。
この悲しい作業をしなくても済む手っ取り早い方法がある。一つは服をあまり買わないこと。そしてもう一つは毎日でも着れる服を買うこと。詳細はこの後にお伝えしていきたい。
ハレの日の一着という価値観がある。ここぞという場面で着る謂わば一張羅だ。鮮やかなファッションの世界を象徴する物だと思うし、この価値観自体は僕も好きだ。好きなのだが、この一張羅の存在がクローゼットを圧迫する最大の要因になっているとも思える。僕もこの手の服は過去に何着も購入してきた。でも一張羅は大なり小なり取り扱いが繊細だったりする。際たるものは家庭でクリーニングが出来ないこと。極上の素材を使ったトロトロの肌当たりのパンツ(ただし家庭用洗濯機不可)や、羽根のように軽く柔らかいニット(ただし擦れや引っ掻きに弱いので着用時注意)のような服は、その素材の特性やデザイン的な面白さで購入したものの、結局は着なくなってしまう。家庭で洗濯出来ない服はいちいちクリーニングに出すのが面倒で、着用頻度は減っていくし、扱いが繊細な服は傷つけたくないがために神経質になり過ぎて、同じように着用しなくなっていく。これらの服が積もりに積もってクローゼットを圧迫していることに気付いた時、僕はこうした服は今後買わないことを決めた。
衣食住という言葉がある。住む場所や食べる物と同水準で、服も生活に根差した物であるべきなのだと僕は思っている。自分の生活環境や属しているコミュニティの中で快適に過ごせることがイメージ出来る服を揃えていけば、クローゼットの中の衣服は事足りるのではないだろうか。そしてそのイメージに沿った服が結局は一番着る服だし、それはつまりクローゼットに残り続ける服だと考えている。


僕の価値観に当てはめてみると、
①自宅で洗濯出来ない服は殆ど選ばない。どんなに自分が気をつけていたとしても、出歩く限り何かしらのトラブルで汚れる可能性はゼロではないからだ。仮にあまり汚れることがない服だったとしても、万が一の時に自宅でケア出来るということは想像している以上の安心材料となる。
②TPOの壁をある程度横断出来る服を選ぶようにしている。突然のミーティングや会食の可能性があるので、最近はカジュアルになり過ぎない服を着るようにしている。アイテム単体がカジュアルならば、スタイリングでそのカジュアルさを相殺できるようにするし、そうした柔軟なスタイリングが可能な服を揃えるようにしている。ハレの日用の服も所持しているが、②のカテゴリの服で対応出来てしまうことも多いし、そもそも僕の生活環境はそんなに華やかな代物ではない。ハレの日など殆ど無いし、だからこそハレの日用の服も殆ど必要無い。ハレの日用の服よりも、公園のベンチに躊躇無く腰掛けることが出来る服の方が、今の僕には必要だ。
③過度な主張のデザインの服や、極端なサイジングの服は選ばない。トレンドを体現するためにはこのような服は一番手っ取り早いが、トレンドが過ぎ去ればこの類の服は途端に着なくなる。分かりやすくトレンドを追った服は、トレンドでなくなれば同じく分かりやすいくらい廃れるのが早い。そもそも世の中が作り上げたトレンドというハリボテみたいな価値観に、僕自身はあまり好ましい感情を抱かないし、SNSのアルゴリズムによって個々人に最適化された情報が垂れ流される現代にあって、万人が納得する流行なんてあるのだろうか。それよりも自分の価値観に合った服を着た方が僕は良いと思うし、同様に自分の身体に合ったサイジングの服を揃えていく方が、長期的な観点から見れば実りは多いのではないだろうか。


前置きが長くなったが、何故こんな話をしているのかというと、最近Algernonのパンツについて問い合わせをいただくことが増えてきたからだ。Algernonには定番でリリースしているAugusとAllukaというパンツがあって、この2モデルが上記した①〜③の僕の価値観にピタリとハマり、実際に僕自身も非常に愛用している。パンツ自体の商品説明は以前から繰り返ししているが、何故これらのパンツがこれだけ推せるのかは、ある程度僕の価値観の前提をお伝えした上でお話しした方が理解度が深まる気がしたので、こうして前置きを含めて記事にしている次第だ。ファッションは文脈や系譜の理解が深まると、より一層楽しいコンテンツだと思っているので。
この後でAugusとAllukaについて語っていくが、この2つのパンツの魅力を一言で語るのであれば『楽に穿けるのに、キチンとして見える服』ということに尽きる。TPOを飛び越え、日々の生活の中で着用のイメージが容易に出来て、何よりイージーケアだということ。こうした服が結局はクローゼットの中でずっと残り続けるのだと、経験的に僕は感じている。



〈Augus〉
ご存知の方もいらっしゃると思うが、Algernonがブランドとして始動して初めてリリースしたアイテムがこのAugusだ。Algernonは僕個人が所有しているアイテムをベースにしつつ、それらをよりブラッシュアップして製品化することが多い。このAugusについても同様だ。ベースにしているのはフランス軍のM-47パンツ。ファッションが好きな方ならきっとご存知の方も多いだろうし、数多のブランドがサンプリングしているアイテムなので、詳細は省かせてもらう。個人的にオリジナルやレプリカを含めてM-47パンツは複数本所持していて、シルエットの綺麗さとスタイリングの汎用性の高さから、デニムと同じくらい着用頻度が多いパンツでもある。この無骨で土臭いシルエットはそのままに、記事を柔らかく上質な物に変えたら面白いことになりそうだと思いAugusをリリースした。初めはネップ感の残るコットンシルク生地で、その後は夏場に快適に穿けるホワイトリネン生地、そして画像のポリエステルナイロン生地のテックパンツとして3バージョンをリリースしている。
がっしりとした生地で、ズドンと落ちるシルエットのM-47パンツを穿きたければオリジナルモデルを穿くのが一番だし、そもそもそうしたアプローチで作られたレプリカが世の中には五万とあるので、Augusは異なるアプローチでデザイナーに作ってもらった。先ずパターンはスラックスのパターンを踏襲して、シルエットがオリジナルよりもすっきりとしたバランスにした。横から見るとしっかりとした太さはあるのに、正面から見ると意外な程にすっきりと纏まっている。これがこのパンツの最大の魅力だと思っているし、実際の購入者からも評価されている点だ。オリジナルのM-47パンツは正面から見たシルエットが土管のように太く、控えめに言って脚が綺麗に見えるとは言い難い。そしてこの太いシルエットはM-47パンツの魅力であると同時に弱点でもあると感じる。太いシルエットはカジュアルな印象が強く、それがTPO的な見地での汎用性を損なう原因にもなってしまう。
M-47パンツの魅力はそのシルエットの太さということも理解はしている。繰り返しになるがそのシルエットに魅力を感じるならオリジナルかレプリカを穿けば良い。僕としてはこの愛すべきM-47パンツを少し別の観点から捉えた一本が欲しかった。欲しいけれど探すと見つからない。それならば作ってしまおうということで生まれたのがこのAugusだ。


AugusはM-47パンツのデザインを踏襲しながらもスラックスのパターンで作られているので、オリジナルに比べてシルエットは太くはないが、代わりに脚が非常に綺麗に見えるという特徴がある。しかもこのパンツはウエストがドローコード(紐)仕様なので、着用感は言ってしまえばパジャマパンツみたいなものだ。スラックス由来の美脚シルエットできちんと感は出せるのに、穿いている本人はパジャマパンツみたいに楽に穿ける。実際に僕は家でも普通に穿いてしまっている。楽なので。
こういう『楽して着れて、楽しているように見えない服』が、結局は一番使うと思っているし、その価値観を体現してくれる一本に仕上がっている。


軽めの生地を使うからこそ、歩くたびに脚の動きに合わせてゆらめきが出来るし、立っている時はスラックスのパターンだからこそ、ストンと落ちるシルエットで脚が綺麗に見える。動きのある服は着ていて楽しいし、脚が長く見えるパンツは穿いているだけでも嬉しいはずだ。


M-47パンツをベースにしたAugusだが、裾部分のベルトは敢えて取り払っている。僕自身が日頃から様々な種類の靴を履くのだが、靴の種類によってパンツの裾のバランスを必ず調整する。その際にAugusならウエストがドローコード仕様なので、紐でウエスト位置の微調整が可能だ。裾の溜まり具合を自由に調整出来るので、多種多様な靴とのバランスが取りやすい。ハイテクスニーカーでもローテクスニーカーでも、革靴でもブーツでもサンダルでも対応可能だ。少なくとも僕はAugusを穿いている際、靴との合わせと裾のバランスで不自由を感じなかった。
柔らかい生地を使って作ることが多いAugusだからこそ、裾にクッションを溜めて穿いた際のバランスもオリジナルのM-47パンツ以上に取りやすい。そして柔らかい生地でクッションを作って穿くのであれば、パンツの裾ベルトは要らない。スラックスのような美脚シルエットを作りたいとも思っているので、溜めて穿いた際に裾のベルトは無い方が収まりが良い。だから敢えて裾ベルトは無くしていることをお伝えしたい。
ウエストがドローコード仕様だからこそファッション的な楽しみ方の幅も広がるし、体型や脚の長さといった身体的な制約にも、より柔軟に対応出来るようにもなっている。そして紐仕様の楽さとシルエットの綺麗さから、Augusはブランド的にも無くてはならないくらい多くの方から支持される一本になってくれた。


〈Alluka〉
Augusが想定以上に好評だったためリリースしたのがこのAlluka。Augusとシルエットは同様で、唯一の違いはサイドのカーゴポケットが無いことのみ。『たったそれだけ?』と思われるかもしれないがたったそれだけのことで雰囲気が一変するからファッションは面白い。
Augus自体がスラックスのパターンで仕上げたパンツなので、カーゴポケットを廃した Allukaはスラックスにより近い位置付けとなる。だがウエストは同様にドローコード仕様にしているので、穿き心地はさながらパジャマパンツであることは踏襲している。
Augusに比べてやや綺麗めな素材をチョイスして作ることが多く、今まではチョークストライプのウールサージ生地→カシミア生地→リネン生地でリリースしてきた。Augusよりもより綺麗めな印象になったからか、オンオフ問わずに穿き回せる汎用性の高さが支持され、有難いことにリリースの度に即完売する程の人気を得ている。



Augus同様に柔らかい生地を使用しているからこそ、歩く度に動きが出てシルエットに変化が生まれるところが最大の特徴。柔らかい生地感は着用者の快適な穿き心地も同様に叶えてくれる。そして歩いていない時はストンと綺麗に落ちるシルエットが楽しめ、何より脚が綺麗に見える。快適さとキチンと感のどちらも得られるのがこのパンツの魅力だ。



Augusに比べてよりスラックス的な立ち位置で提案しているAllukaだからこそ、同素材のアウターと絡めてセットアップでの展開をすることもある。写真はAllukaに合わせることも想定してリリースした新型のオーバーサイズジャケットBejamin。Allukaと同じリネン生地を採用し、アンコン仕様で裏地もなく、当然のように家庭で洗濯できるようにした。セットアップで購入してくれる方が多かったのが本当に嬉しかった。このセットアップはTPO的な煩わしさを解消してくれることもあって、僕自身もこの春夏は本当に良く着ていた。リネン素材のセットアップだからこそ、着て洗ってを繰り返すと購入時よりもより一層着心地が良くなる。楽に着れて、そしてキチンと感が出せる服が僕は好きだということを再認識させてくれた。




綺麗めにも穿けるカジュアルパンツだからこそ、カジュアルな方向に思いっきり舵を切ったとしても、しっかりと受け止めてくれる懐の深さがある。それがAugusとAllukaというパンツを僕が信頼している理由だ。綺麗めなシャツやニットに合わせても良いし、カジュアルなパーカーやスウェットと組み合わせてもしっくりきてしまう。それは見方を変えると、あらゆる人の生活スタイルや趣味嗜好に馴染むパンツとも言える。
ここで冒頭の話をもう一度しておきたい。僕は楽に着れて楽して見えない服が好きだ。TPOに制限を受けない服も好きだ。何よりもイージーケアで使える服が好きだ。それらの服から僕は日々の『生活』をイメージするし、そのイメージが抱ける服はクローゼットにずっと残り続ける服にもなるのだと、これまでの経験から理解してきた。そんな僕自身の価値観を提案するAlgernonというブランドを知ってもらうために、AugusとAllukaという2つのパンツは正にうってつけだと思う。機会があれば是非試してみてほしい。
