MA-1はお好きですか

『実用服とファッション』

 

人間にとって最低限の生活基盤となる『衣食住』という価値観がある。長いこと服飾業界で働いていている上での肌感覚での理解になるが、衣食住で言うところの衣=ファッションではないことくらいは分かっているつもりだ。生きる上での最低限度での衣服と、趣味嗜好要素の強いファッションという両者の間に乖離が生まれるのは当然のことだと思うし、僕はファッションを『いかに無駄な要素を生活に組み込むか』という価値観を軸にして楽しんでいるので、そう考えると衣食住の衣とファッションとの乖離の溝は深ければ深いほど良いとすら思えてくる。

 

世の中には目的を持って生まれた服が多数存在する。その際たる物がミリタリーウェアだ。生地一つ、ディテール一つとっても意味を持ち、大量生産品ながら生命を守るためのクオリティを担保させている点を考慮しても、生きるための服の代表格と言って差し支えないと思う。僕は衣食住の衣の指向性と限りなく近い立ち位置で作られたこのミリタリーウェアを、ファッションの文脈に落とし(堕とし)込むのがとても好きだ。前述したように僕は『いかに無駄な要素を生活に組み込むか』という価値観を軸にしてファッションを楽しんでいるので、実利を突き詰めたこのミリタリーウェアたちを、都市部での生活の中で当たり前のように着てしまう感覚をとても大事にしている。機能性を追求した生地も、可動域を考慮したパターンワークも、この国の都心部で生活するにはいささかオーバースペックだ。だがこの行き過ぎた機能服を着ることにも、ファッションという文脈で語るのであれば意味と意義が見出せる。非日常を想定して作られた服は、日常の中で着てしまうといささか悪目立ちが過ぎる。だからこそそのアンバランスさが面白いし、その歪さこそがファッションなんだと僕は思う。

 

 

 

 

Algernonが今年リリースする新型のアウターMaude。型はミリタリーアイテムの定番中の定番であるMA-1だ。MA-1は以前から好きでよく着ているので、いつかはAlgernonから出したいとは思っていたが、何故このタイミングでリリースするようになったのか。この後で順を追って話していきたい。

 

最大の理由となったのは都心部の冬がそれほど寒くないということだ。暖冬化が進む日本にあって、特に僕の住んでいる都心部では真冬の防寒アウターの出番が年々減ってきている。もっこもこに膨れ上がったベイマックスのようなダウンも、ヘビーデューティーなウール製ロングコートも、暖房が効いた電車内や商業施設内ではオーバースペックだし、寧ろそのボリュームや丈の長さが足枷となり動きにくさすら感じてしまう。昨今は特にウールインナーに代表される機能性肌着やカシミアニットの普及により、以前より着込まずとも寒さ対策をする選択肢が増えてきている。だからこそインナーでしっかりと防寒対策をして、アウターはさほど嵩張らず風さえしっかり防げる物を着てしまえば、都心部の真冬は十分対応可能な筈だ。

 

昨年SHINYAでもダウンジャケットをリリースして、僕自身も冬の間中愛用していたが、上記したような理由で電車での移動中や商業施設での買い周り時には暑さで悩まされることも多かった。勿論その温かさに助けられるシーンも無数にあったので、ダウンジャケットの有用性は分かっているつもりだが、そうなってくるとダウンとは別の側面で真冬に対応できるアウターが欲しくなってくる。そこで白羽の矢が立ったのがMA-1で、最終的に生み出されたのがMaudeになる。

 

 

 

 

恐らくこの記事を読んでいる人の殆どはMA-1を着たことがあるだろうし、それはつまり世の中のありとあらゆるブランドがMA-1をリリースしていることにもなる。それならば何故作ったのか。それは欲しい物がなかったからだ。

 

MA-1と聞いて真っ先に思い浮かべるのはそのボリュームだ。中綿がパンパンに詰まったボディやアームは、アイコニックなMA-1という服を、よりアイコニックな物たらしめている。だが上記したように冬の都心部での生活にはその過度な中綿は不要だ。勿論不要でないと言う人もいると思うが、それならばありとあらゆるブランドが中綿入りのMA-1をリリースしているし、古着やリプロダクト品も無数に存在するのでそちらを着ることをお勧めする。中綿無しのMA-1も確かに存在するが、それらの個体は大抵はペラペラボディの所謂ライトアウターであって、個人的にMA-1のアイデンティティ思っているそのボリュームが一切活かされていない。なので僕はそれらのライトアウター面したプロダクトをMA-1だとは思っていないし思いたくもない。

 

MA-1特有のボリューム感を維持しつつ、中綿無しの個体で探すとしっくりくる物が本当に見つからない。なかなか見つからないと言うことは即ち作るのが面倒で誰もやりたがらないからだと推察されるが、デザイナーはさらりと『出来ますよ』と言ってきた。それで完成したのがこのMaudeになる。中綿無しでMA-1のあのルックスをどう再現するのかが疑問だったが、結果的にはとても満足のいく仕上がりになった。

 

 

 

 

このMA-1には中綿を入れていないが、画像の通りちゃんとボリュームは出ているのが分かる。理由としては使っている66nylonと言う生地がキモで、この生地のハリ感が中綿無しでもしっかりとした膨らみを作ってくれている。このハリのある66nylon生地を無双仕立てにすることによって、個体全体にボリューム感を出しているだけでなく、耐風性を増した作りにしている。ミリタリースペックの糸を超高密度に織り上げていることから、一般的なナイロンよりも耐摩耗性、耐久性、剛性に優れていると言う機能面でのメリットと、市販のMA-1には無いシルクのような柔らかな肌触りが特徴になっている。

 

中綿を入れていないことによるメリットは他にもあり、家庭用洗濯機での洗濯が可能となっていることだ。自宅での洗濯をするしないは購入者の自由にしていただいて構わないが、個人的には『万が一のことがあった時に洗える』服は日々の生活の中で活躍すると思っている。食べ物を溢したり、レジャーでの使用時に土煙で汚れたりした時でも慌てることはない。汚してしまうかどうかは別として、『自分でケア出来る』ことは安心材料に繋がるはずだ。そして自分でケア出来る服は気兼ねなく着れるので自然と着用頻度が増えていくし、そうした塩梅の服はクローゼットに残り続ける一着になっていくとも思っている。

 

洗濯が出来るからこそ、個人的には寧ろガシガシ洗ってほしい。着用と洗濯を繰り返す度に生地はエイジングしていくし、ジップも斜交していく。古着屋で雰囲気のあるMA-1の個体を目にしたことのある人も多いと思うが、このMaudeはエイジングしていくとその個体以上に育ち方をしてくれるはずだ。先ずそもそもの生地が良いし、ジップはYKKのエクセラモデル。袖口や首元のリブにも上等なコットンを使っている。僕としてはリブがヘロヘロになったり破けたりしたMA-1にも美しさを感じるので、それこそボロボロになるまで使い倒してもらえたら嬉しい。

 

 

 

 

デザインとしてはMA-1らしさを残しつつも、過度な土臭さは廃したバランスに着地させている。例えばオリジナルではボディ部分のリブがキツく、ボディのボリュームとの対比で前ジップを閉めた際はかなりボテっとした見た目になる。それがMA-1の魅力と言われてしまうとそれまでだが、僕はあのシルエットバランスがあまり好きではない。身体のシルエットが綺麗に見えないし、個人的な主観だがあのボテっとした見た目はとてもおっさん臭い。そのおっさん臭さや土臭さを出来るだけ中和させて、イメージとしては上等なカシミアのニットに合わせた時でも遜色無く纏まるバランスの方が僕好みだ。

 

僕自身はどちらかというとカジュアルウェア嗜好で、反対にデザイナーは小綺麗な塩梅の服を好む人間だ。だからこそ僕が普段から着るような服をデザイナーに作ってもらうと、最終的に小綺麗なカジュアルアイテムで仕上がってくる。よくよく考えるとこの塩梅の服は探してみると意外と見つからないし、だからこそ自分たちで作って提案していく意義があるようにも感じている。

 

ボディ部分のリブはキツくしすぎず、前ジップを閉めた際にはストンと落ちるシルエットにしてもらった。逆に袖口のリブはややキツめにしてもらっている。太いアームとキュッと締まった袖リブのコントラストを楽しんでほしいし、何よりも袖をくしゅくしゅと溜めて着る『ボンバージャケット』としての着方が好きなのでこの仕様にしている。サイズアップして着てもリブで袖がしっかりと溜まるので、萌え袖になってバランスが崩れることも無いと思う。因みに僕は普段より2サイズ上げてこのMA-1を着ている。

 

無駄な物は排したいので前ポケットのフラップは取り払った。ポケットに手を突っ込む時に邪魔だし、仮にフラップがあったとしても僕の場合はポケットの中でぐしゃぐしゃになってしまった筈なので。無駄な物は排すると言いつつもシガーポケットは残した。個人的にはMA-1の一番好きなポイントは太いアーム部分なので、そこに鎮座するシガーポケットは断じて無駄な物ではないと思っている。当然シガーポケットはちゃんと開閉するので、僕はワイヤレスイヤホンでも入れて活用しようと思う。ここでもジップはYKKのエクセラジップを使っていて、デザイナーが細部まで抜かりなく作り込んでくれているのが分かる。

 

 

 

 

繰り返しになるが、このMA-1は土臭さは残しつつも着やすい塩梅に落とし込んでリデザインされている。もし古着やレプリカのMA-1を着てサイジングやデザインにしっくりこなかった経験のある方がいれば、試しに一度このMaudeを着てみてほしい。いつも通りのサイズで着るのも良いし、サイズアップして着るのも面白い筈だ。

 

どこにでもある服だけれど、探してみると中々しっくりくる塩梅の物が見つからない。だから自分たちで作ってみた。結局この動機で作った服が一番着ることは経験的に理解している。たかがMA-1、されどMA-1。用の美の代表作の一つでもあるし、同時にファッションの文脈でもアイコンとして語られる一着だ。きっとこのMA-1は長い年月を着用者に寄り添ってくれる服になると信じている。

 

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